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最高裁判所第二小法廷 平成元年(オ)1382号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人大木一幸の上告理由について

民法一八七条一項は、いわゆる権利能力なき社団等の占有する不動産を法人格を取得した以後当該法人が引き継いで占有している場合にも適用されるものと解すべきであるから、当該不動産の時効取得について、その法人格取得の日を起算点と選択することができる。

原審の適法に確定した事実関係によれば、被上告人は、今から約三〇〇年前に遡る護国山最勝寺をその前身として昭和二八年一〇月五日宗教法人として設立された寺院であるが、右最勝寺は、かねてその所有地として原判決添付物件目録記載の各土地(以下「本件土地」と総称する。)の公租公課を負担し、本件土地を第三者に賃貸するなどして、その賃料で住職の生活費を賄ってきたところ、被上告人が設立された際に代表役員に就任した宮崎憲道、その後に代表役員に就任した篠矢珪堂、磯崎正治は、被上告人設立以後、本件土地を被上告人の所有地として前同様に管理を継続し、かつ、本件訴訟に至るまで、被上告人が本件土地をその所有地として管理するにつき、異議を述べられることもなく、紛争を生じたこともまったくなかった、というのであって、右事実関係の下で、被上告人がその法人格取得時に本件土地の占有を開始し、以後二〇年を経過したことによって、本件土地を時効取得したものと認めた原審の判断は、結論において是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひっきょう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原判決の結論に影響のない事項について若しくは独自の見解に立ってその違法をいうものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島谷六郎 裁判官 藤島 昭 裁判官 香川保一 裁判官 奧野久之 裁判官 草場良八)

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